小学校から帰ると、まっさきにおじいちゃんの家に遊びに行く。
おじいちゃんとおばあちゃんは内職をしていて、いつも工場にはたくさんの金属が山積みにされていました。
夕方にはテレビでプロレスを見たり、時代劇を見たり。
時には内職を手伝ってお駄賃をもらったり。
何もかもがわが家にはないものばかりで、おじいちゃんちが大好きでした。
日が暮れる頃、1日の仕事を終えたおじいちゃんは、今度は大きくて年季の入った木の机へ移動します。
オレンジ色のシェードのデスクランプ、黒電話、鉄製のテープカッターがある机上で帳簿付けの時間です。
ピンク色の細かな罫線がたくさん引かれた帳簿にたくさんの数字、カーボン紙を使って書く伝票。
見たこともない、何に使うのかも分からない大人の文房具にとても興味深々でした。

わが家はわが家でとても個性的な文房具事情。
両親揃って教師。
父は筆記具が好きだったようで、万年筆や高級そうなマルチペンをよく使っていました。
もちろん、わが家には先生なら誰しも持っているあの採点ペンが当たり前に転がっていました。
独特の発色のインク。ピンクなのかオレンジなのか赤なのか……。
シャッ!シャッ!と音を立てながら柔らかそうなペン先を更紙に押し付けて、
マル、バツ、三角を付けています。そのペンもまた、憧れの大人の文房具。
それを覗き込んでは「惜しいっ!98点!」なんて言ったりして。

そんな少女は、坂を下って少し行ったところにあった町の小さな文房具屋さんが大好きでした。
お小遣いを小さな手に握りしめて例の大人の文房具をよく買いに行ったものです。
「お嬢ちゃん、これは大人が使うやつやけど?」とご主人にいつも聞かれます。
「うん、いいの!」と言っては、青や赤で印刷された何に使うか分からない例の伝票を買い集めていました。

憧れの大人の文房具。

小学5年生の頃だったかな、わたしがお誕生日プレゼントにおねだりしたのは万年筆でした。
どこで買ってもらったのか、それを選んだ理由は覚えていないけど、「大人のやつ」が欲しかったのは覚えています。
真っ黒のボディにゴールドのクリップ、スリムなペン先のPILOT製の万年筆。
スルスルーっとペンが走り、書いた文字はインクのグラデーション、今までにない筆記性に目をキラキラさせたのを覚えています。その万年筆は当然のようにわたしの宝物になりました。
その後も様々な文房具と出会うのですが、そのお話はまた次の機会に。

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そして月日が流れ文房具好きの少女が大人になり、今日、このDRESSENSEをオープンします。
コンセプトは、あの万年筆で丁寧に書き上げました。
今ではもう、艶やかで煌びやかさはないけれど、この少しくたびれた万年筆とこれからもずっと一緒です。

ずっと長く愛せるものをみなさまにも。